知られざる自然

幻の森林鉄道 葛根田線青倉支線(2016.1.10)

かつて雫石営林署が運行していた森林鉄道葛根田線について、平成27年秋に雫石町西根在住のY氏からお話しを聞くことが出来た。
Y氏は、森林鉄道葛根田線が運行されていた当時、伐採や馬を使って軌道近くまでの搬出、玄武から後述する青倉まで軌道の除雪などの経験の持ち主だ。
当時は軌道敷を歩いて西根小に通い、学校から帰ると、軌道脇で待ち伏せして列車に飛び乗ったりして遊び、滝ノ上まで列車に乗って行ったこともあるそうだ。
Y氏によれば、葛根田第1発電所の建設工事には森林鉄道が使われたそうで、その工事は突貫工事であり、発電所建設は篠崎地区の活性化に貢献したそうである。
雫石町史には東北電力葛根田第1、第2発電所の新設起工式は昭和27(1952)年、第1発電所の完成が昭和29(1954)年3月完成とある。
葛根田線の路線縮小は昭和31年以降であり、晩年は木材輸送以外の使命も担ったわけだ。
ちなみに、この先にある葛根田地熱発電所については、起工式が昭和51年で、葛根田線が全廃された昭和36年より遥か後であり、滝ノ上の奥での硫黄採掘は、逆に軌道ができる以前の出来事で、運搬に軌道が使われたことは無いと思うとY氏は述べている。

ところで昭和27年発行の旧版地形図(5万分の1)には、今でいう平ケ倉沼への登山口の先にある砂防堰堤付近の葛根田川左岸に青倉温泉の表記がある。
青倉温泉は現存せず、資料も見当たらない。
Y氏は青倉温泉について「いい温泉だった」と懐古され、次のように述べている。
場所は今の砂防堰堤の上あたりにあったと思う。自然湧出で今でも湧いているはず。
森林鉄道の葛根田線から青倉まで、葛根田川を渡り支線が分かれていた。
青倉事業所は大きな事務所や温泉宿や診療所、木炭倉庫もあり、山の中にしては開けたところだった。製材所などはなかった。
温泉をどこが経営していたのかは知らないが、それらは一気に全部なくなってしまった。個人経営だったら残っていたのではないか。いつなくなったのかは覚えていないが、診療所は営林署が作ったもので、炭焼きなどの人たちも多く、山で働く人たちに薬を提供するなどしていた。
まだ西山診療所が出来る以前のことであり、営林署の力は凄いと思った・・・

 

以上のような話から総合すると、青倉温泉は営林署の保養施設であったようにも推察される。
ちなみに、西山診療所については、雫石町史第2巻によれば、昭和28年に西山国保直営診療所建設とあり、葛根田線が昭和16年に全線開通した12年後となる。
青倉支線については旧営林署別土木台帳に記録がなく、当然、現在出版されている森林鉄道関係本にも記録がない。まさに幻の森林鉄道といえる。
しかし、その存在については前年に行った元林鉄マンのF氏からの聞き取りでも確認している。

 

青倉という地名は現在の地形図にはなく、従って青倉支線の位置もはっきりとは分からない。
F氏によれば、青倉線は葛根田線からメグリ沢の辺りで分岐したそうで、青倉には営林署の事業所があり、位置ははっきりとは覚えていないがメグリ沢より奥にあったとのこと。
青倉線の延長は500mぐらいはあったそうで、温泉は葛根田川の北側にあり、温泉に渡る橋があり、当時は宿もあったとのこと。はやりY氏の話とも一致している。
葛根田線は川の南側を走っていたとも述べている。
これらF氏、Y氏の証言や旧版地形図に記された青倉温泉の表記を手掛かりに、青倉事業所について少しでも明らかにするため、平成27年11月22日に現地を調査することにした。

 

まずは事業所に必要な平坦地を対岸の県道から探すことにした。
その結果、平坦地は葛根田川砂防ダムの下流側左岸にしか見いだせなかった。
次に青倉支線が葛根田川を渡河した地点を探す。
F氏の「メグリ沢よりも奥」との証言を基に、烏帽子岳平ケ倉コース登山口付近の駐車スペースに車を止め、そこから葛根田川へ下りた。
すると、駐車スペースよりも下流寄りの右岸に何やら人工的な物体が見えた。
近づくとそれは、コンクリート製の橋脚だった。あまりにもすんなりと明確な痕跡を発見し興奮する。ちなみに、ここは県道からは見えない場所だ。
橋台部分は地山が崩壊したためか残っていない。
しかし、本線に至る軌道跡は、青倉支線が廃止されてから54年以上たつというのに、近年まで使用されていたかのごとく明瞭な堀割として確認できた。
緩やかなカーブを描くその小径は森林鉄道ならではの美しいラインだ。
堀割を歩くと谷地のようにぬかるんでいた。
そしてぬかるみの中で足元に何かぶつかった。それは枕木のようにも思える木材だった。
これが水の流れを止めたために谷地化し、笹などの雑草が繁茂せず、軌道跡が明瞭に残されたのだろう。

コンクリート製の橋脚 下流側から
(コンクリート製の橋脚 下流側から)
コンクリート製の橋脚 正面から
(コンクリート製の橋脚 正面から)
右岸軌道跡から橋脚を望む。
(右岸軌道跡から橋脚を望む。)
渡河点から本線に至る軌道跡の掘割
(渡河点から本線に至る軌道跡の掘割)

さて、探索は葛根田川渡河点に戻る。
ここから先、青倉支線は上流を目指したものと思われるが、左岸の橋台を含め、軌道の痕跡は全く確認できなかった。おそらく丸太組みによる架空道床だった可能性もある。
続いて、青倉事業所の跡地を見つけるべく、先に目星をつけた平坦地を探査した。
手始めに山際のながらかな斜面から調査したが、何ら痕跡は確認できなかった。
何本かの沢水にも触れてみたが温泉らしいものも確認できなかった。
しかし、一番下の葛根田川に近い平坦地を調査したところ、途中で一筋の石の並びが気にかかった。何となく人為的に一列に並べたように見えたのだ。
近づいて腐葉土を掘ってみると、少なくとも2段に積まれた石積であることが確認できた。
十分注意しないと見過ごしてしまうところだった。長い年月はここまで人工物を埋没させてしまうのかと正直驚いた。
そして石積はある程度の長さで連なり、一段高いところにも同様なものが確認できた。
これは間違いなく、人工的に造成された平坦地だ。つまり青倉事業所の跡と考えて、ほぼ間違いないと思われる。
葛根田線からここまでの距離もおよそ500mでF氏の証言と丁度一致する。
参考までに石積並びに平坦地の概略を平面図と断面図で示す。

少なくとも2段に積まれた石積を2か所で発見
(少なくとも2段に積まれた石積を2か所で発見)
石積の拡大
(石積の拡大)
石積の前面は掘割形状になっていた。
(石積の前面は掘割形状になっていた。)
青倉事業所推定 断面図、平面図
(青倉事業所(推定) 断面図、平面図)

石積の手前は幅1.8mの堀割になっている。
森林鉄道2級の道床幅が2.0mと規定されているのに対し0.2m足りないが、経年変化を考慮すれば、ここまで軌道敷だった可能性は十分ある。
また、渡河点との高低差も森林鉄道の機関車が上ってくるのに無理はなさそうだ。
平坦地には現在は雑木が繁茂しているが、どれも細い木ばかりで、当時は開けた場所だったことを想像するのに難くない。

森林鉄道の調査は毎回上手くいくものではない。しかも今回ほど資料に乏しいケースは今までになかった。なので、これほど首尾よく完全に埋没しかけていた青倉支線と青倉事業所の痕跡を発掘できるとは思ってもみなかった。
こうして記録として残すことができたのは、F氏とY氏の貴重な証言のお陰に他ならない。
この場を借りて厚くお礼申し上げたい。
帰宅後、現地調査の結果などを基に、当時の青倉事業所のイメージをスケッチにしてみた。

県道から青倉事業所跡地を望む。赤囲みが石積のあった場所
(県道から青倉事業所跡地を望む。赤囲みが石積のあった場所)
葛根田線青倉支線位置図
(葛根田線青倉支線位置図)

この背景地図データは国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである。

在りし日の青倉事業所と酒井4tDL(イメージ)
(在りし日の青倉事業所と酒井4tDL(イメージ))
コメント: 37
  • #37

    ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)

    昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。

  • #36

    白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)

    宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
    画像加工いいですね!!

  • #35

    ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)

    私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
    でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!

  • #34

    白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)

    産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?

  • #33

    ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)

    徳永さん、了解しました!
    ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!

  • #32

    徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)

    前山の記事 拝見しました。
    西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
    もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。

  • #31

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)

    chanmikiさん
    いらっしゃいませ!
    コメントありがとうございます。
    日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
    慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!

  • #30

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)

    白州丸さん
    長いことコメントに気付かずスミマセン
    東京は大変ですよね。
    ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
    大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
    岩手は恵まれてますよ!

  • #29

    chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)

    初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
    数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
    本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
    でも本日23日じゃないですよね?天気から。
    私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!

  • #28

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)

    コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡

  • #27

    白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)

    コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。

  • #26

    白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)

    馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。

  • #25

    ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)

    徳永様
    お久しぶりです!
    コメント有難うございます!
    丸森良かったですねー
    雪もたっぷりで何よりでした。
    そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
    いつか、ウロコでご一緒したいです!

  • #24

    徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)

    以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。

  • #23

    ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)

    家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!

  • #22

    白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)

    今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?

  • #21

    ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)

    白州丸さま
    宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
    旧道歩きは発見があって楽しいですね!

  • #20

    白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)

    1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。

  • #19

    白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)

    親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。

  • #18

    ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)

    白州丸さま
    ジムニーで薪運搬!
    こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!

  • #17

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)

    有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!

  • #16

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)

    手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。

  • #15

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)

    父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!

  • #14

    白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)

    見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!

  • #13

    白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)

    テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね

  • #12

    ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)

    リタイヤじっちゃん様
    丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!

  • #11

    リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)

    ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)

  • #10

    ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)

    史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。

  • #9

    史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)

    はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!

  • #8

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)

    シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。

  • #7

    小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)

    岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。

  • #6

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)

    泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。

  • #5

    リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)

    体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)

  • #4

    ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)

    いやはや!
    ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
    今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!

  • #3

    リタイヤじっちゃん  (水曜日, 01 10月 2014 18:16)

    久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。

  • #2

    ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)

    ritzさん、コメント有難うございます!
    阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!

  • #1

    ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)

    はじめまして。
    4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
    4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
    これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。