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阿部館山(2022.4.9)

北上高地の阿部館山(1,221m)は、岩泉町の櫃取湿原の奥に位置し、登山道がなく、周辺に同等かそれ以上の標高の山々に囲まれているため目立たない存在だ。

ステップソールのテレマークスキーの機動力を最大限に発揮できる山容であり、我が家からも見える山というのが僕にとって大きな魅力で、チャンスに恵まれれば毎シーズン訪れている。

県道大川松草線の冬期通行止めが解除された直後がねらい目で、それを以前では長い徒歩を強いられるし、それより後では雪が消えてしまう。

だからチャンスは非常に限られることになる。

昨シーズンは天気には恵まれたものの雪が少なすぎてかなり厳しいツアーだったが今年はどうだろうか。

こればかりは、実際に出かけてみないと分からない。

 

国道106号の新区界トンネルが開通しアクセスはかなり短縮されたけど、長いトンネルで峠をくぐるため、トンネルを抜けるまで山の様子は全く分からなくなった。

松草から県道に入り、日陰に雪を確認する。

去年は蓬原峠(仮称)付近まで雪がなかったので、それよりはマシなようだ。

途中、早池峰山を見渡せる場所で車を止める。

本当に美しい山だと思う。石鳥谷付近から眺める南面も、旧川井村方面から眺める北面も、それぞれ趣が異なった美しさに気品を感じる。

県道大川松草線から望む早池峰山
(県道大川松草線から望む早池峰山)

蓬原峠には青松葉山を目指すハイカーの車が何台も止まっている。

この時期にスノーシューなどでここから登るのは多くの人気を集め、僕が宮古に単身赴任していた頃は市民登山も行われていた。

青松葉山を目指すハイカーを横目に峠を通過する。

その先、櫃取湿原への分岐には車が3台止まっていた。

ここが阿部館山への入口だ。

雪は昨年に比べればはるかに多いが、過去最高というほどではなかった。

放牧用の道路の除雪も進んでおり、出だしはスキーを担いで歩くことになる。

 

櫃取湿原の案内板で道路の除雪は終わり、そこからはスキーを履く。

振り向けば青松葉山が見える。

湿原には幾つも沢が流れ込んでおり、そのたびに迂回したりして意外に時間を取られるし体力も消耗する。

湿原の最奥まで行き、そこから稜線鞍部を目指し本格的な登りとなる。

今日はGPSを持参していないので地形図とコンパスを頼りに目標の地点を目指す。

雪は湿雪で、ステップソールでぐんぐん高度を稼ぐ。

それと共に、振り向けば早池峰山が姿を現してくる。

櫃取湿原への道から青松葉山方面を振り返る
(櫃取湿原への道から青松葉山方面を振り返る)
櫃取湿原を行く
(櫃取湿原を行く)
湿原からダケカンバの斜面に取り付く
(湿原からダケカンバの斜面に取り付く)

広い山頂を持つ標高1,222mの無名峰は360度の展望だ。

ここでスノーシューのハイカー数名とすれ違う。

結果から言えば、今日、テレマークスキーで入山したのは僕だけだったようで、この山の魅力があまり知られていないのはちょっと寂しい気がする。

ここから阿部館山との鞍部に向けて、滑るのに好適な尾根が続いているが、今日は雪が重くて板が走らなかった。

 

阿部館山へは広い尾根を登る。

昨年は雪が消え笹薮だった山頂も、今年は十分な雪があった。

展望はもちろん遮るものがない。

早池峰山も雲に隠れることなく全貌が見渡せる。

南北に細長い山頂をそのまま北へ進む。

目的は御金蔵岩だ。

安倍貞任の隠し居城伝説に由来し、山名もここからきているに違いない。

「北天の魁-安倍貞任伝-(菊池敬一、岩手日報社刊)」などを読んでから登れば、さらに味わい深い山旅になろう。

山頂付近にあったスノーシューの足跡も御金蔵岩方面へ続いていた。

同じようなことを考える人はいるものだなぁーなどと思いながら進んでいく。

御金蔵岩は山頂域を北にやや下った場所にある。

北に御大堂山を望む。

金庫型の四角い岩は、基岩から繋がっているのではなく、ただちょこんと載っているだけで不思議だ。

そしてここからの眺めは本当に素晴らしく、北から、姫神山、八幡平、岩手山、秋田駒ケ岳、和賀山塊など一望でき、まるで安倍貞任がこれらの山々と対峙しているかのような錯覚にとらわれる。

無名峰付近から阿部館山を望む
(無名峰付近から阿部館山を望む)
阿部館山山頂
(阿部館山山頂)
阿部館山山頂から早池峰山を望む
(阿部館山山頂から早池峰山を望む)
御金蔵岩の全景
(御金蔵岩の全景)
御金蔵岩
(御金蔵岩)

御金蔵岩の眺めを満喫したら昼食にする。

それにしても意外だったのは、山頂から続く足跡がここで折り返すのではなく、そのまま御大堂山方面の稜線に続いていることだった。

相当な健脚であり、この山域の熟達者に違いなく、いったいどういうルートを辿っているのか興味がわく。

 

下山は阿部館山山頂から西に樹林帯を下った。

こちらの雪質はザラメで気持ちよく滑れた。

バックカントリーは良くも悪くも雪質が変化に富んでいるのが面白いところだ。

ヒエガラ沢の源頭部付近まで滑り降り、沢を巻きながらトラバース気味に獅々ケ沢ノ頭(1,261m)を目指す。

実は阿部館山よりも標高が高いので、ここから200m登り返すのは結構きつかった。

獅々ケ沢ノ頭山頂からは、丁度、早池峰山に方角を定め、櫃取湿原に滑り込む格好だ。

 

ダケカンバなどに囲まれた明るい樹林帯の斜面はとても気持ちよく滑ることができ、それまでの登りの苦労が一瞬にして報われた。

朝には無かった新鮮なクマの足跡も何回か確認した。

尾根を選んで沢をかわしてピークを結んで、目標通りのルートをトレースでき、そういう点でも満足度の高いツアーだった。

御金蔵岩から御大堂山へ続く稜線に足跡は続いていた
(御金蔵岩から御大堂山へ続く稜線に足跡は続いていた)
阿部館山山頂から樹林帯に滑り込む
(阿部館山山頂から樹林帯に滑り込む)
獅々ケ沢ノ頭からダケカンバの樹林帯を滑降する
(獅々ケ沢ノ頭からダケカンバの樹林帯を滑降する)
新鮮なクマの足跡が出迎えてくれた
(新鮮なクマの足跡が出迎えてくれた)
コメント: 37
  • #37

    ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)

    昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。

  • #36

    白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)

    宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
    画像加工いいですね!!

  • #35

    ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)

    私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
    でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!

  • #34

    白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)

    産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?

  • #33

    ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)

    徳永さん、了解しました!
    ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!

  • #32

    徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)

    前山の記事 拝見しました。
    西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
    もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。

  • #31

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)

    chanmikiさん
    いらっしゃいませ!
    コメントありがとうございます。
    日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
    慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!

  • #30

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)

    白州丸さん
    長いことコメントに気付かずスミマセン
    東京は大変ですよね。
    ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
    大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
    岩手は恵まれてますよ!

  • #29

    chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)

    初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
    数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
    本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
    でも本日23日じゃないですよね?天気から。
    私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!

  • #28

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)

    コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡

  • #27

    白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)

    コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。

  • #26

    白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)

    馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。

  • #25

    ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)

    徳永様
    お久しぶりです!
    コメント有難うございます!
    丸森良かったですねー
    雪もたっぷりで何よりでした。
    そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
    いつか、ウロコでご一緒したいです!

  • #24

    徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)

    以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。

  • #23

    ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)

    家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!

  • #22

    白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)

    今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?

  • #21

    ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)

    白州丸さま
    宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
    旧道歩きは発見があって楽しいですね!

  • #20

    白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)

    1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。

  • #19

    白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)

    親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。

  • #18

    ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)

    白州丸さま
    ジムニーで薪運搬!
    こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!

  • #17

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)

    有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!

  • #16

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)

    手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。

  • #15

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)

    父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!

  • #14

    白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)

    見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!

  • #13

    白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)

    テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね

  • #12

    ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)

    リタイヤじっちゃん様
    丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!

  • #11

    リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)

    ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)

  • #10

    ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)

    史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。

  • #9

    史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)

    はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!

  • #8

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)

    シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。

  • #7

    小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)

    岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。

  • #6

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)

    泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。

  • #5

    リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)

    体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)

  • #4

    ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)

    いやはや!
    ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
    今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!

  • #3

    リタイヤじっちゃん  (水曜日, 01 10月 2014 18:16)

    久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。

  • #2

    ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)

    ritzさん、コメント有難うございます!
    阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!

  • #1

    ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)

    はじめまして。
    4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
    4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
    これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。